第93話 現役を続けるとは筋肉を鍛え続けるということ |
A3サイズの紙に向かい、以前通り下書きも一切なしで、いろいろなレイアウトを思い浮かべて、
自称“ポスカの魔術師”の手はまるで勝手に動くかのごとくスラスラと・・・
の、はずでした。
しかし・・・
実際には思ったようにポスカを持った手が動きません。
全くといっていいほど思い通りにならない。
というより、その思いそのものが出て来ないのです。
以前ならレイアウト、文字体、文字のサイズ、文字の色、文字装飾の仕方といったものが
ポスカ=マジックを握って紙に向かった瞬間に“パッ”と目の前に広がりました。
自分が書こうとしているPOPそのものがイメージとして目の前に鮮明に映し出されるのです。
それをポスカでなぞれば良かったのです。
ポスカの使い方は以前と比べて衰えていませんでした。
自分で言うのも変ですが、とてもPOPらしい上手な文字です。
POPに書く言葉=コピーもちゃんと出てきます。
文字が上手で、言葉がしっかりしている。
普通ならそれで十分なのかもしれませんが、私はPOPのプロを自認していました。
少なくとも1枚のPOPを作品として捉えた場合、全くプロのものではありませんでした。
そこでふと思いつきました。
よくプロ野球のOBがオフシーズンに集まって試合をしています。
つい2~3年前まで現役だった人もいます。
みんな元大スター選手ばかりです。
それなのに、体型からフォームから見る影もなくなっている人ばかりです。
稀に村田兆治さんみたいに50を過ぎてなお140KMのボールを投げる人います。
しかしながらほとんどの元スター選手があり得ないほど悲惨です。
少なくとも15年以上もプロ野球で活躍していたスター選手が、なんで2年やそこらで高校生よりも下手くそになるのか・・・
ちなみにサッカーの三浦知良選手は私と同い年です。
日本のトッププロリーグの中であれだけ走り回れる41歳がいるでしょうか?
そこに「プロの現役」としての底力を感じます。
我々は全員、ある職業においてプロフェッショナルです。
カズはサッカーのプロであり、私はとんかつ屋のプロです。
プロとして自分を高いレベルに追い込み、日々鍛えています。
もともとの運動能力以前に、プロとしての鍛錬が決定的に違います。
5年程前にたまたまバスケットボールで遊ぶ機会がありました。
第4話で書いたように、中学生の時は狂ったようにバスケットボールをしていました。
そのつもりでドリブルをしましたが、いきなり突き指です。
シュートも全然ダメ、中学生の時にできたことが何一つできませんでした。
スポーツにおいても、遊びにおいても、仕事においても、
現役の筋肉というのが存在して、それがしばらく離れると見事に崩れ去るのが原因だと思います。
私の手書きPOPの筋肉は見事に崩れていました。
しかし飲食店経営者として、飲食店マーケッターとしての筋肉はどんどん鍛えられています。
何もかもの筋肉をつけておくことは基本的に不可能です。
今、自分に必要と思われる筋肉をしっかり鍛えていくこと。
それがその道のプロフェッショナルとしての正しい方向性であると思います。
あれだけすごかったPOPを書けなくても、意外に悔しくない自分にそんなことを思いました。
別にバスケットボールができなくなってもいいやん。
ポスカでPOPを書けなくてもいいやん。
とんかつを売らせれば日本一の商品構成、メニューブック、チラシをつくれる事が
今の私にとっては「プロの現役」なんやから。